推薦のことば

本書は，看護師にとって苦手意識の強い解剖生理の知識を，誰が読んでもわかりやすいよう，噛み砕きに噛み砕いて解説した1冊である．解剖生理を「ビジュアル」「やさしく」解説した類書は多い．実に多い．しかしながらそれらの書は，本当にわれわれ看護師が，臨床という場で活躍してゆくことを真摯にイメージして作られたものなのであろうか．その答えはNOかもしれないと感じることも多い．

基礎教育の中で，初学者の多くが解剖生理や病態生理につまずき，とりあえず脇に置くことで進むしかない実情があると聞く．実際，看護師国家試験でも，確かに解剖生理を問う問題は多くない．学生時代においては，避けて通ろうと思えば通れる領域なのだ．

しかし，それで本当にいいのだろうか．臨床に出て出会うのは，生きた患者である．１つ１つの実践が，命に直結するのが臨床である．患者がさまざまな症状を訴える，生体の変化を示す．ときに一刻を争う自体に，身体の中で何が起こっているのか想像できるのとできないのでは，およそ看護師として成長する過程は大きく変わっていくはずだ．見えないものを見えるように対処するには，ベースとなる知識は不可欠だからである．臨床知という言葉を使う人も増えたが，基本を知ってこその臨床知であることは言うまでもない．

多くの書は，なんとかその苦手な解剖生理を，後追いで学んでもらえるよう，大きなイラストや派手な紙面で誘導する．それも１つの方法だが，見るだけで人の身体のことが理解できるとしたら，もはや基礎教育はいらないという極論が成り立つ．それは否である．知識の蓄積があって，それを活用するからこそわれわれは資格職なのである．

実は，多くの解剖生理に必要な知識は，理科や生物で学んでいることに気づく．それを忘却し，曖昧なまま看護学校のはじめての授業に臨むからこそ，そこで話される多くの専門用語に圧倒され，いつしか眠りに落ちるのかもしれない．

本書は，そのスタート地点に立つ前にこそ，抑えて欲しい，本当は誰しもが「苦手」などではない，ただただ忘れている解剖生理の基礎知識を，改めてまとめたものだ．人の体のことを人体という，体の中の構造が解剖で，それのしくみが生理学．人の体がどういう構造で，どのように働いているのか，これが解剖生理である．これら基本を知るだけでも，きっと解剖生理の授業は，ただの苦痛ではなくなるはず．まさに，ゼロ時間目に読みたい1冊だろう．

では，すでに臨床に出てからの看護師では遅いのか．そんなことはない．ベテランと呼ばれるスタッフであっても，本書を読んで目からウロコが落ちることは想像に難くない．むしろ，たとえばこれから認定看護師を目指す臨床家にとっても，授業を受ける前，つまりゼロ時間目に最低限おさえて欲しいスタートラインの知識でもある．

これから旅立つ看護学生に，そしてこれからが本番である次のステップを考える臨床看護師にぜひ一読をお勧めする．

2012/05/15

道又元裕・杏林大学医学部付属病院看護部長